むかし、あこがれの先輩がおりまして。
あこがれとすきとはまたちがうもんなのか、
ちゃんと、すきな人も別におりまして。
別にどちらともどうともならなかったのですが、
今思うと、贅沢だなあと思います。
あこがれもすきも、両方持っていたなんて。
ある夏の日、先輩を見つめていました。
半袖Tシャツからのびる、ごつっとしたひじ。
じぶんのひじの三倍くらいありそうな、ひじ。
そこにかさぶたがあって、
あかあくなってたのです。
いちばんの頂点があかあくなって
だんだん皮膚にとけこんで
きれいなきれいなグラデーションで。
「いちごのかき氷みたいやなあ」
と私が言うと、
先輩は
「俺をおいしそうなもんに例えるなっ!」と言って
わたしの頭をはたきました。
そのとき
わたしのあこがれの気持ちが
先輩に伝わったのがわかりました。
夏が来るたび、思い出します。
先輩、元気やろか。
いじめたこともいじめられたことも
いじめを見てみぬふりしたこともあるから
偉そうなことはいえないけど。
いじめにあったとき、
あとからそのいじめっ子に
「あのとき、親が離婚しかけていて
家族仲いい話ばっかりするあなたが嫌だった。
だからいじめたのだと思う。ごめん」
と言われた。
「知るかよ」と思った。
私が家族の話ばかりしていたのは
そのころ、父が大きな病気をしていて
死ぬかもしれないと、思っていたからだった。
父の病気の話はほとんど誰にもしていなかった。
誰かに話すと、本当に父の病気が悪くなって
死んでしまう気がしたから。
他人をいじめていい理由なんて、絶対にない。
いじめていい人間なんて、どこにもいない。
あのとき、いじめた相手に本気で怒れてよかった。
わたしはいじめられてはいけない人間なんだ、
いじめられる理由なんてない、と怒れてよかった。
それはたぶん、自分を大事にしてくれるひとたちが
ちゃんといたから。
そんなことも見失うくらい、
ひどいいじめもあるんだと思う。
でも絶対に
いじめられていい人間なんていない。
いじめていい状況なんてない。
刺繍姉妹展にご来場のみなさま
ありがとうございました。
いつのまにか夏がきていました。
じりじりと灼ける暑さのなかで
蟻も蝉も生きているのに
自分だけ一歩も進めていないんじゃないかと
思うとき
この「水族館」のことばハンカチを思い浮かべます
知らないだけで
私のすぐうしろで
私が欲しい奇跡は起きつつあるのかもしれない
私が思いつきもしないかたちで
世界はたしかに動いていて
私もまたその中のひとつとして
奇跡を起こしている途中かもしれない
綿子
糸を針に通して、チクチク縫って、糸の色を替えて、また針に通して……。
少しずつしか形にならないのが、刺繍。時間がかかるのが、刺繍。
でも、あの日から、
なんでもあの日に結び付けてはいけないけれど、
やっぱり、あの日から、
そういう時間がとても大切で。
ひと針縫えば、ひと針ぶん、かたちになる。
その確かさを感じていたかったんだと思います。
桜、雨、すいか、イチョウ、雪。
移り変わる季節を縫いとめたのは、
どんな年でも変わらずめぐっていく、その確かさが
刺繍とおんなじで、やっぱり心強かったから。
今年も春が来ました。
刺繍と一歩って似てると思う。
清 綿子
【「刺繍姉妹展」開催のお知らせ】
昨年3月に結成した刺繍アートユニット「刺繍姉妹」の展覧会です。
イラストレーターの藤原千晶さんとオオノ・マユミさん、綿子による刺繍を使った三人三様の作品を展示します。テーマは「季節」。
ご来場、お待ちしております。
2012年4月6日(金)〜4月19日(木)
※ただし、9日と16日はお休み。
@アール座読書館http://r-books.jugem.jp
東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
電話:03-3312-7941
火〜金13:30〜22:30
土日祝12:00〜22:30
月曜定休
※営業日時は変更の場合アリ。HPでチェック!
【行き方】高円寺南口を出て右にあるPAL商店街を入る。ダイソーの向かいにある洋服屋の角を右折。少し歩いた左手にあるビルの二階。
※会場は、読書のための喫茶店。ゆえに、おしゃべりは禁止です。また、必ずワンオーダーをお願いします。