幸せだ、と言うことにも
批判を恐れないといけない時代だ
声が意図せぬ範囲まで意図せぬトーンで飛んでいき、
だれかを傷つけてしまう、怒らせてしまう
だけどあなたの命を思うとき、
わたしはその言葉以外、思いつかない
しかも、世界中に聞こえるほどの大声で
わたしはそれを言いたくなる
あなたにさえも、この言葉は批判させない
わたしはあなたが生まれて
断乎として、幸せだ
あなたはみつける
つつじの花の蜜の味
窓伝う雨の宝石
好きなひとの背中のぬくもり
帰り道のお風呂の匂い
教えることも与えることも
用意しておくこともしない
かならずみつける
あなたはみつける
あなたは
煌めきの中に生まれてきた
長らく育休をとっておりました。
短い小説を書きましたので、久しぶりの更新です。
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気づいたときには、浮かんでいた。
ここはどういう場所だろう。わたしは伸びをしてたしかめた。わたしの体の動きにあわせて、かすかなさざ波が起こった。
――海なんだ
わたしの内側と同じ温度だったから、気づかなかった。世界と自分に境界線があることを知ってはじめて、わたしはわたしを自覚した。
――たのちーい!
わたしは魚のように体をくねらせて、この柔らかな海を堪能した。海は真っ暗だったけど、いつでも温かかったので、怖くなかった。そのうちわたしの手指が完成すると、海を握ったり放したりして、その感触をたしかめた。たぷん、たぷんと手の中で海は遊び、海もわたしを好きなんだ、と思った。
海はどこからくるのだろう、わたしは目をこらしたけれど、やっぱりなんにも見えなくて、その範囲も、どこからこの海がやってくるのかもわからなかった。ただ、耳をすませると、かすかなどくんどくんという音にあわせて、海全体が収縮しているのがわかった。
――この海は宙に浮かんでいるんだ
わたしはすこし、怖くなった。
わたしはある日、海水を飲んでみた。海はしょっぱあまかった。甘じょっぱいとはちょっと違う。先に塩気がくるのだけれど、あとに圧倒的な甘みがくる。そのとろりと温かい液体が、のどを通り、わたしのからだの真ん中を伝いおりていくのが面白くて、わたしはかぷかぷと夢中になって飲み続けた。いくら飲んでも海は減らないので、不思議だったけれど、あるとき、自分が飲んだ分だけおしっこをしているからだと気づいて、さらに楽しくなった。おしっこをじょーっと出すと、ほんのわずかだけれど、股の下の海の温度があがり、わたしはわたしの内側に熱が生まれていることに気づいた。
やがて海は小さくなっていった。相変わらずわたしは海に包まれていたけれど、海はさらに大きな膜に包まれているようだ。その膜が目に見えるほど近づいてきてはじめて、海が小さくなったのではなく、自分が大きくなっていることに気づいた。海面が近づくにつれ、海は明るくなっていき、常に聞こえているどくんどくんの後ろのほうに、別の音波があることに気づいた。それはどくんどくんよりささやかで、高く、限りなく優しかった。それが聞こえると、甘やかな喜びが胸に渦まき、わたしは何度か宙返りをした。膜にわたしの手足が当たると、膜の外側から歓声があがる。
――誰かがわたしを待っている!
その人がこの海を作ったのだ。わたしはこの海を出ようと決意した。
その日、目覚めるとすぐ、はっきりと悟った。その日がきたのだと。
――出てきなさい
わたしを待っている誰かではなく、もっと大きな存在。わたしを包む海、海を包む誰か、その誰かをわたしごと包む何か。その大いなる何かがわたしに告げた。
――さあ、出ておいで
わたしは体を丸めて、頭を海の底に向かって何度もぶつけた。さざ波は波になり、大波となり、津波となった。
ぱん!
膜が破れる音がして、ちょろちょろと周りの海水が流れ出した。そのうち皮膚を伝う海水は重く速くなった。まるで土砂降りの雨の中にいるようだ。下へ下へとわたしを押し流す。ウォータースライダーに乗るようにわたしは夢中で、膜の破れ目に向かって突き進んでいった。いつものどくんどくんはどんどん速く、激しくなり、それにあわせてわたしの心臓もびりびりと震えだした。波にのまれて息が苦しくなる。早くここからでなければ。海の外へ! まぶしい!
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」
自分の声を初めて聴いた。わたしを覆い、守っていた、あの海がどこにもないことを知って、涙があふれる。どうして出てきてしまったの。わたしは元の海に帰ろうとして、今さらばたばたと宙を掻いた。
「よーしよーし」
あの誰かの声が降ってきた。大きな柔らかいものがわたしの濡れた頭に触れる。あの海とおんなじ温度だ。わたしは泣き続けていたけど、もう怖くなかった。嬉しくて声を張り上げた。
「ありがとう」
誰かがわたしにそう言った。
――ありがとう
わたしも泣き声で答えた。
――あなたが海だったんだね
webshop「Little Forest」で私の新商品が販売開始されました。https://littleforest2018.com/category/watako/
「 ピアスホルダーにもなる刺繍画」です。
女の子の三つ編みがリースに。
お手持ちのピアスを飾って、あなただけの刺繍画が完成します。
私が絵をはじめて買ったのは、社会人になってから。
手のひらサイズの桜の花びらに囲まれた女の子の絵でした。
当時住んでいた女子寮の壁にその絵を飾ったら、
自分だけの世界を手に入れた気がしました。
「絵を買う」ってそんな力があると思います。
この小さな刺繍画が、だれかのちょっとしたワクワクになれたらいいなと思います。
webshop「Little Forest」で、綿子の刺繍品をご購入いただけるようになりました。
第一弾はことばハンカチ「いいよ」
みんなに「いいね」ばかり言ってたら、わたしがどんどん拗ねてしまった。
「36歳になったから」「お母さんになったから」「きっと恵まれているほうだから」
そうやって、自分を縛りつけていた。
たいへん、たいへん。
肝心のわたしを私は置いてきぼりにしていた。
ごめんね、いっぱい言うよ。
いいよ、わたし。
そんな想いを込めました。
https://littleforest2018.com/category/watako/
こちらですてきに紹介いただいてます。
よろしくお願いいたします。
長らくご無沙汰しておりました。
じつは産休に入っておりました!
今絶賛子育て中です。
刺繍ももっぱら子どものものばかりになり、
ことばハンカチにまで昇華できていませんが、
また少しずつ、針と糸を手に日々を紡いでいこうと思います。
本日発売の「装苑」6月号に、「刺繍の特別な自由」という特集で、インタビューを受けました。
「装苑」といえば、憧れの雑誌です。
小学校の頃、デザイナーの叔母に「わたしもデザイナーになる!」と宣言したところ、叔母が東京から毎号読み古した「装苑」と「流行通信」と「オリーヴ」を送ってくれたのでした。
「装苑」の「装苑大賞」にいつか載ることを夢見て、つたないデザイン画を描いていたのが懐かしく思い出されます。
その後、叔母のブランド「硝子絵倶楽部」のスカートが装苑の表紙に使われたときも、自分のことのように誇らしかったです。
その「装苑」に!あの「装苑」に!
お声がけいただいたときは、夢じゃないかと思いました。
担当の編集者さんが、わたしの作品にかける気持ちを一から百、いいえ、それ以上聴き出してくださって、
新たに自分の作品と向き合うこともできました。
本当にとても幸せです。
それとともに、あー、もっとカッコよく、
装苑にふさわしい作品を作っていかなければ!
と思いました。
がんばっちゃいますよ!
装苑 2017年 6月号 (雑誌) https://www.amazon.co.jp/dp/B06XC4NMMG/ref=cm_sw_r_cp_api_2uzazbWRQ3BP9
ウエディングドレスを刺繍しました。(自分の)
ドレスショップHinagikuさんの所で
オーダードレスを作成。
打ち合わせするうちに、「後ろ身頃にわたこさんの刺繍を入れたら?」と提案があり。
レースに刺繍するのはとっても難しかったけど
一生の記念になりました。
合わさった二人の手が花に見えるように。
ドレスショップHinagiku
http://www.siesta-dress.com/